FXでチャートを見すぎた男、ついに全部がシグナルに見え始める

チャートを長く見ていると、
不思議なことがあります。

最初は、
ちゃんと値動きを見ているんです。

上がっている。

下がっている。

ここで反発した。

この辺は普通です。

ところが、
チャンスを探しながら何時間も見ていると、
だんだん様子がおかしくなってくる。

何でも、
「何かのサイン」に見えてくるんですね。

今日は、
そんなトレーダーの話です。

チャートを見すぎると、こうなる

「ちょっと見て」

「何?」

「ここ、買いじゃない?」

「どこ?」

「ここ」

「……いや、普通に上がったり下がったりしてるだけじゃない?」

「でも、ここで一回止まってる」

「まあ、止まってるな」

「ってことは反発する可能性あるよね」

「可能性はあるんじゃない?」

「じゃあ買いだ」

「急に確定すんなよ」

「だって今、可能性あるって言ったじゃん」

「可能性があるのと、買いシグナルは別だよ」

「でも可能性はある」

「そこだけ握りしめるな」

「ほら、上がった」

「2pipsな」

「やっぱり」

「何がやっぱりなんだよ」

「相場が俺に教えてくれた」

「2pipsで会話すんな、相場と」

ローソク足にも意思があるらしい

「あと、このローソク足」

「今度は何?」

「買いたそう」

「……誰が?」

「ローソク足」

「ローソク足に意思はない」

「いや、見てよ」

「見てるよ」

「下ヒゲ出してるじゃん」

「出してるね」

「下は嫌ですって言ってる」

「言ってねえよ」

「上に行きたいんだよ」

「進路相談みたいに言うな」

「でも下ヒゲって、下から戻されたってことでしょ?」

「それ自体はそう」

「じゃあ上に行きたいんじゃん」

「だから、そこに人格を乗せるな」

「この陽線なんか、かなり前向きだよ」

「ローソク足の性格診断やめろ」

「こっちはちょっと陰キャだな」

「陰線だからって陰キャにすんな」

線を引けば、だいたい何か見つかる

「待って」

「まだあるの?」

「ここに線引いてみる」

「うん」

「ほら」

「何が?」

「ピッタリ」

「何に?」

「高値」

「一本しか当たってないじゃん」

「じゃあ、ちょっと傾ける」

「動かすなよ」

「ほら。二つ当たった」

「当てにいってんじゃねえか」

「さらに伸ばす」

「何の線なんだよ、それ」

「重要な線」

「重要だから引いたんじゃなくて、引いたあと重要にしてるだろ」

「でも価格って、この辺意識してるよね」

「お前が一番意識してるよ」

「市場参加者も見てると思う」

「その線、お前しか見えてない可能性あるぞ」

「世界で俺だけ?」

「急に特別感出すな」

「じゃあ、先行者利益だ」

「そういう話じゃねえよ」

探し始めると、全部チャンスになる

「あ」

「何?」

「今度は本物」

「さっきまで偽物だったの?」

「この動き見て」

「見てる」

「一回下がった」

「うん」

「戻った」

「うん」

「また下がった」

「うん」

「これは何かある」

「値動きだよ」

「いや、この規則性」

「上下してるだけだよ」

「相場に偶然なんてないから」

「あるよ」

「全部に理由がある」

「そう思い始めたら危ないんだよ」

「じゃあ、この3本のローソク足が並んだのも偶然?」

「普通に並ぶだろ」

「このタイミングで?」

「ローソク足はずっと並んでるよ」

「……なるほど」

「分かった?」

「ずっとシグナルが出てるってことか」

「逆だよ」

チャンスを探してから見ると、だいたい見つかる

「でもさ」

「うん」

「何かシグナルがないか探すのって、普通じゃない?」

「まあ、それ自体は普通だよ」

「じゃあ俺、合ってるじゃん」

「最後まで聞け」

「何?」

「買う理由を探しながらチャート見たら、買う理由なんていくらでも見つかるんだよ」

「例えば?」

「上がってたら、トレンドが強い」

「うん」

「下がってきたら、押し目」

「うん」

「横ばいなら、上に抜けそう」

「うん」

「下に抜けても、ダマシかもしれない」

「うん」

「何が起きても買えるだろ」

「……」

「何?」

「完璧じゃん」

「最悪だよ」

「どんな相場にも対応できる」

「自分の都合に対応してるだけだよ」

「柔軟性って大事だから」

「それは柔軟性じゃなくて後付け」

「臨機応変」

「言い換えてもダメ」

とうとうチャートの外にもシグナルが出始める

「ちょっと休憩しよう」

「なんで?」

「もう3時間見てるから」

「まだ3時間だよ」

「“まだ”って言うな」

「コンビニ行ってくる」

「そうして」

……

「ただいま」

「早かったね」

「ちょっとこれ見て」

「何?」

「レシート」

「レシート?」

「ここ」

「合計1,284円」

「じゃなくて、この形」

「何の形?」

「上昇してる」

「どこがだよ」

「商品価格」

「上から128円、198円、258円」

「たまたまだろ」

「綺麗に切り上げてる」

「レシートでトレンド分析すんな」

「次、398円来たら買いだな」

「何を買うんだよ」

「ドル円」

「関係ねえだろ!」

電車に乗っても、まだ終わらない

「もう外に出たんだから、相場のこと忘れろよ」

「分かった」

「電車でも乗って、ちょっと頭冷やしてこい」

「そうする」

……

「戻った」

「どうだった?」

「すごかった」

「何が?」

「路線図」

「もう嫌な予感するな」

「この線、強くない?」

「路線だよ」

「ここで一回止まってる」

「駅だからな」

「そのあとまた伸びてる」

「電車走るからな」

「ここ、何回も止められてる」

「乗換駅だよ」

「かなり強いサポートだな」

「乗換駅をサポート扱いすんな」

「この線とこの線が交差してる」

「乗り換えだよ」

「ここ重要だな」

「それは重要だよ」

「ほら!」

「FX的な意味じゃねえよ」

「この先、上に伸びてる」

「北に行ってるだけだよ」

「買いかな」

「何を?」

「ドル円」

「路線図からドル円に飛ぶな!」

街中にも相場が見えてくる

「もう歩け」

「なんで?」

「電車まで分析するから」

「分かった」

……

「戻った」

「今度は何?」

「階段」

「転びそうになった?」

「いや」

「綺麗な上昇トレンドだった」

「普通に上り階段だよ」

「一定の角度で高値を更新してた」

「階段だからな」

「途中で踊り場があった」

「あるよ」

「レンジだった」

「休む場所だよ」

「そのあと上抜け」

「二階に行っただけだよ!」

「かなり強かった」

「建物が?」

「買いたかった」

「階段を?」

「ドル円を」

「だから何でドル円に戻るんだよ!」

今度こそ相場から離れたはずが

「今日はもう家帰れ」

「その前に焼き鳥食べてきていい?」

「焼き鳥くらいならいいよ」

「チャート見ないで」

「見ない」

「スマホも触らない」

「分かった」

……

「ただいま」

「どうだった?」

「やっぱり出てた」

「何が?」

「トレンド」

「焼き鳥屋で?」

「串が全部、同じ方向向いてた」

「焼き鳥だからな」

「かなり綺麗だったよ」

「何が綺麗なんだよ」

「一方向に揃ってた」

「串の話だろ?」

「トレンドって、やっぱり一回出ると強いね」

「焼き鳥で相場語るな」

「でも、ねぎまだけ逆向きだった」

「知らねえよ」

「あれ、ダマシかな」

「焼き鳥屋で検証すんな」

「つくねは横向きだった」

「串の置き方だよ」

「レンジか」

「皿だよ」

「レバーは?」

「知らねえよ!」

「レバレッジ高そうだった」

「“レバー”からレバレッジに行くな!」

見すぎると、見えていないものまで見えてくる

「分かった」

「やっと?」

「俺、チャート見すぎなんだ」

「そうだよ」

「チャンスがない時まで、チャンスを探してる」

「そう」

「だから、ただの値動きにも意味をつける」

「そういうこと」

「線を引いて」

「うん」

「ローソク足の気持ちを考えて」

「それはやめろ」

「レシートを分析して」

「それもやめろ」

「路線図でサポート見つけて」

「やめろ」

「階段で上抜け確認して」

「やめろって」

「焼き鳥でダマシを検証する」

「全部やめろ!」

「じゃあ、どうすればいい?」

「チャンスが来るまで待てばいいんだよ」

「何もしない?」

「そう」

「チャート見ない?」

「必要以上にはな」

「シグナル探さない?」

「無理矢理は探さない」

「……」

「何?」

「それ、結構難しくない?」

「だからみんな余計なトレードするんだよ」

「なるほど」

「分かったなら今日は終わり」

「分かった」

「パソコン閉じて」

「閉じた」

「スマホも置いて」

「置いた」

「よし」

「……」

「……何?」

「ちょっと動かないで」

「なんで?」

「お前の前髪」

「前髪?」

「さっきから高値切り上げてる」

「俺でチャート分析すんな!」