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最初にお断りしておきます。
これは、
一通の予告状から始まる架空の話です。
ただし、
そこで起きることは、
FXをしている人ならそれほど他人事でもないかもしれません。
すべての始まりは、
白い封筒でした。
「その日、多くのトレーダーが負ける」
ある朝。
都内の小さなFX関連メディアに、
差出人の書かれていない封筒が届きました。
中に入っていたのは、
白い紙が一枚。
書かれていたのは、
たった二行です。
8月某日 午後3時。
その日、多くのトレーダーが負ける。
銘柄は書かれていません。
ドル円とも、
ユーロドルとも、
ゴールドとも書かれていない。
暴落とも、
暴騰とも書かれていません。
ただ、
「多くのトレーダーが負ける」
それだけでした。
最初に見た編集者は、
イタズラだと思ったそうです。
当然です。
FXをしていれば、
毎日どこかで誰かが負けています。
わざわざ予告するような話でもありません。
その紙は、
しばらく机の端に置かれていました。
ところが。
昼過ぎ、
一枚の写真がSNSに投稿されます。
そこから、
少しずつ話がおかしくなっていきました。
一枚の写真がSNSで拡散された
最初の投稿は、
それほど大きな反応ではありませんでした。
FX関連メディア編集部
今日、差出人不明の封筒が届きました。
さすがにイタズラだと思いますが……。
「8月某日 午後3時。その日、多くのトレーダーが負ける。」
ところが、
投稿から数時間後。
引用投稿が増え始めます。
「これ、為替介入じゃない?」
「午後3時ってことは欧州勢が入る時間?」
「重要指標ある?」
「日銀関係者?」
「いや、未来人だろ」
「とりあえずドル円売っとくか」
まだ、
何も起きていません。
そもそも、
何が起きるとも書かれていません。
それでも、
人は空白を見ると、
何かを書き込みたくなるようです。
翌朝には、
「謎のFX予告状」
という名前まで付いていました。
ワイドショーまで取り上げ始める

話題は、
FX界隈だけでは収まりませんでした。
午前の情報番組でも、
この予告状が紹介されます。
【速報】謎の予告状 指定時刻まであと29時間
「その日、多くのトレーダーが負ける」
差出人は誰なのか。
市場関係者はどう見ているのか。
司会者が、
専門家に尋ねます。
「これは、
市場の急変を知っている人物なのでしょうか?」
専門家は困った顔をします。
「文面だけでは、
何とも言えません」
「ただ、
“午後3時”と時間まで指定しているのは気になります」
この
「気になります」
が、
さらに燃料を投下しました。
SNSでは、
「専門家も何かあると言ってる」
という話に変わっていました。
言っていません。
人間の伝言ゲームは、
相場より値動きが激しい時があります。
YouTubeでは考察動画が乱立した

午後になると、
YouTubeにも動画が増え始めます。
タイトルは、
だんだん強くなっていきました。
【緊急】8月某日15時、ドル円に何かが起きる?
【削除覚悟】謎の予告状の正体が分かりました
【警告】この時間だけは絶対にポジションを持つな
【速報】政府関係者説が急浮上
もちろん、
政府関係者だという証拠はありません。
しかし、
動画のサムネイルには、
なぜか国会議事堂が使われています。
別の動画では、
黒塗りの車。
さらに別の動画では、
巨大な赤いローソク足。
まだ、
何も起きていません。
でも、
見た目だけは、
もう金融危機です。
XM利用者にも不安広がる
話題は、
国内FXだけではありませんでした。
海外FXを使っている人たちの間でも、
「急変したらロスカットはどうなる?」
「ゼロカットは本当に間に合う?」
「ハイレバで持っていたら危ない?」
といった声が出始めます。
特にXMTrading(XM)を使っている人の中には、
ハイレバでポジションを持つことに、
急に不安を感じ始めた人もいました。
もちろん、
この時点ではまだ何も起きていません。
それでも、
「何か起きるかもしれない」
というだけで、
普段は気にしていなかったことまで急に気になり始めます。
トレーダーたちは、少しずつ動き始めた
取材を受けたあるトレーダーは、
こう話しました。
「普段なら気にしません」
「でも、
時間まで指定されると……」
「何かあるのかなとは思いますよね」
別のトレーダー。
「一応、
ロットは落とそうと思っています」
「ただ、
大きく動くなら取りたい気持ちもあります」
そして、
FXを始めて3か月だという男性。
「上か下か分からないので、
両方に注文を置こうかなと」
記者が聞きます。
「普段もそういうトレードをするんですか?」
男性は答えました。
「いや、
普段はしないです」
この頃には、
予告状そのものより、
予告状を見た人たちの行動の方が変わり始めていました。
二通目の手紙
指定時刻まで、
残り18時間。
最初の封筒が届いた編集部に、
もう一通の手紙が届きます。
同じ白い封筒。
差出人なし。
中には、
また一枚だけ。
原因は、相場ではない。
この一文で、
騒ぎはさらに大きくなりました。
「システム障害?」
「証券会社のサーバー?」
「ハッキング?」
「何かの規制?」
誰も答えを知りません。
憶測が憶測を呼んでいく。
指定時刻まで、あと6時間
朝から、
ドル円のチャートを開いたままにする人が増えました。
普段なら見ない1分足を見る。
少し動けば、
「始まった?」
少し戻れば、
「まだか」
また動けば、
「これじゃない?」
SNSでは、
ローソク足一本ごとに実況が始まります。
「今のヒゲ怪しくない?」
「さっき急に5pips動いた」
「絶対何か漏れてる」
「15時前に仕掛けてくるかも」
「もう入った」
まだ、
指定時刻ではありません。
でも、
すでにトレードは始まっていました。
三通目の手紙
午後1時。
三通目が届きます。
今度の文面は、
さらに短いものでした。
もう始まっている。
この言葉をきっかけに、
SNSは完全に混乱しました。
「何が?」
「もう動いてるってこと?」
「15時より前に来る?」
「今の上昇がそう?」
「いや、下落の方だろ」
買う人。
売る人。
一度入って、
すぐ切る人。
逆に入り直す人。
ロットを上げる人。
怖くなって全部閉じる人。
何もしなかった人まで、
チャートだけは見ています。
午後3時まで、
あと2時間。
午後2時59分

ワイドショーでは、
画面の左上にカウントダウンまで表示されました。
YouTubeでは、
複数の配信者が生配信。
SNSには、
「来るぞ」
という投稿が並びます。
そして。
午後3時。
……。
ドル円は、
少し上がりました。
そのあと、
少し下がりました。
また少し戻りました。
特別な暴騰も、
暴落もありません。
為替介入もありません。
大規模なシステム障害もありません。
市場は、
驚くほど普通でした。
「予告は外れた」
午後3時10分。
最初の速報が出ます。
【速報】市場に大きな変動なし 謎の予告状は“外れ”か
SNSにも、
安堵したような投稿が増えます。
「解散」
「釣りだったな」
「何だったんだよ」
「めちゃくちゃ警戒して損した」
「往復ビンタ食らった」
「15時前に何回も入って全部負けた」
「結局、普通にしてれば良かった」
一人のトレーダーは、
取材にこう答えました。
「相場は、
別に何もしてないんですよね」
「勝手にこっちが、
何か起きると思って動いてしまった」
別の人は、
「普段なら絶対入らないところで、
3回入りました」
「全部負けました」
最初の手紙には、
こう書かれていました。
その日、多くのトレーダーが負ける。
暴落するとは、
書いてありません。
暴騰するとも、
書いてありません。
為替介入があるとも。
経済指標があるとも。
ただ、
多くのトレーダーが負ける。
そう書いてあっただけです。
そして、最後の手紙が届いた

午後4時12分。
編集部に、
四通目の封筒が届きました。
これまでと同じ、
白い封筒です。
中には、
一枚の紙。
最初に書かれていたのは、
一言だけでした。
予定通りです。
その下に、
小さな文字が続いていました。
相場を動かす必要はありませんでした。
あなたたちが、
自分で動いたからです。
「何かが起きる」と聞けば、
何かを探す。
動けば理由をつける。
動かなければ、
これから動く理由を探す。
普段なら入らない場所でも、
特別な日に見えれば入る。
そして、
結果が出たあとで理由を作る。
最初の予告は、
市場について書いたものではありません。
最後の一行。
予告したのは、あなたたちの行動です。
その後、
差出人が誰だったのかは、
分かっていません。
本当に未来を知っていたのか。
それとも、
人間の心理を知っていただけなのか。
確認する方法もありません。
ただ。
最初の手紙が届いた時点では、
まだ誰も負けていませんでした。
二通目が届いた頃には、
すでに多くの人がチャートを開いていました。
三通目の
「もう始まっている」
という言葉。
あれは、
相場のことではなかったのかもしれません。
……。
あなたなら、最初の手紙を読んだあと、何もしないでいられたでしょうか。





